-------------------------------------------------- 『姉地獄』小林漠 ◆容量:9,78KB -------------------------------------------------- 【真】 「……っ……ん……いたっ…………」 気がつくと後頭部に鈍い痛みが走った。 ぼんやりとしていた視界が、意識が、徐々に回復し始める。 しかし、記憶が僅かにおかしい。 前後が上手に繋がらなくて、何が何だか分からない。 【真】 「ここは……?」 顔を上げると自分が、どこかの部屋にいるということは理解出来た。 だけど、どうしてそこにいるのかは理解出来ない。 【真】 「…………」 おれは……たしか…… 白い霧のような靄が、ゆっくりと、薄れていく。 そうだ、思い出した。 おれは…… 【詞】//CV木村あやか 「真、おはよ」 …………。 ……。 そうだ、おれは…… 休暇を利用して、姉さんのアパートに訪ねて…… 【真】 「姉さんっ……っぁ!?」 ガチャリ 背後で鉄がこすれる音が響く。 同時に、おれの手首に痛みが広がった。 【詞】 「ダメよ、あばれちゃ」 【真】 「な、なんだこれ……!?」 なんだよこれ!? ……おれの手首が、手錠によって背後の支柱に繋がれている。 【真】 「ちょ、ちょっと、ね、姉さんっ!?」 なんなんだよこれ。 一体どういうことなのか、さっぱり分からない。 【詞】 「ねえ、真」 【真】 「……なに」 【詞】 「なんでもない」 【真】 「…………」 姉さんの長く伸びた艶やかな黒髪。 タンクトップ越しから分かる、豊満な胸。 短めのスカートから除く、肉付きのよい長い脚。 そして。 張りのよい桃色の唇は――妖艶に微笑んでいる。 【詞】 「真」 姉さんが、徐々にこちらへにじり寄って来て。 …………。 ……。 【詞】 「んっ……」 姉さんの唇が、おれの唇を奪う。 ふわっと懐かしい姉さんの香りが鼻いっぱいに広がった。 【詞】 「んちゅっ……んんっ……」 【詞】 「ねえ、真……」 【詞】 「もう、はなさないから」 熱を帯びた視線で射とめられ、 そして再びキスをされた。 …………。 ……。 おれは、姉さんに監禁された。  ** 【詞】 「真、ご飯よ」 【詞】 「今日は姉さん特製の、ラブオムライスっ」 【詞】 「トッピングスパイスに愛をたーーくさん乗っけた、真だけのために作った料理なんだからねっ!」 【真】 「…………」 【詞】 「はい、アーン」 【真】 「…………」 【真】 「あの、姉さん」 【詞】 「なあに?」 【真】 「その……服、着てよ……」 なんで、裸エプロンなのだろうか。 薄手のエプロンから、姉さんの肌という肌がチラリズムして、非常に目のやり場に困る。 困る……。 【詞】 「私と真の仲じゃない。何をいまさら」 確かにそうかもしれないけれど……。 姉さんが料理を作っている最中、視線を逸らすのがとても辛かった。 おれが拘束されている位置からキッチンが見えるため、なんというか、その…… 姉さんの綺麗なお尻が、どうしても視界に入って…… 【詞】 「顔真っ赤にしちゃって、真ったら可愛いんだから」 【詞】 「もしかして、ずっと私のこと見てたの?」 姉さんは笑みを浮かべる。 新しいおもちゃを見つけた子どものようだった。 どうやら確信犯だったらしい……。 【真】 「み、見てないよ……」 【詞】 「ほんとぉ?」 【真】 「う、うん……」 【詞】 「ちゃんと見てよ、ほら」 チラリ エプロンをめくって、姉さんの太ももがあらわになる。 もう少しで、秘部まで見えてしまいそうだった。 【真】 「ちょ、ちょっとっ!」 思わず目を逸らした。 羞恥から、思わず背中に汗が噴き出す。 【詞】 「ちゃんと見てくれるまでやめなーーいっ」 子どもかよあんたは。 【詞】 「ねえ、真、ほら」 【真】 「…………」 【詞】 「ドキドキする?」 【真】 「し、しないよっ」 【詞】 「しなさいよ、もうっ」 【詞】 「してくれなきゃオムライスあげなーーいっ」 横暴だ。 おれをからかったりして遊んだりするところは、すごく、いつも通りの姉さんらしい。 【詞】 「それとも、真は胸のが……好き?」 今度は首元のエプロンを引っ張って、 大きな谷間を覗かせようとしてくる。 【真】 「っ……」 病的なんじゃないかと思わせるほど白い肌と、大きなたわわ。 とても柔らかそうで、とても気持ちよさそうな姉さんの胸だ。 【詞】 「ねえねえ、どっちが好きなの?」 【詞】 「胸? それともやっぱり、アソコ?」 【真】 「そんなのっ……!」 言えるわけない。 ああ、あと少しで姉さんの乳輪と乳首が……。 って、おれは何を考えてるんだ。 部屋いっぱいに姉さんの甘い香りが広がっているためか、どうにもおれを惑わす。 ほんと、オムライスなんて眼中になくなってしまうくらいに。 【詞】 「どっちか言ってくれないとオムライスあげなーいっ」 別にいらない、オムライスなんて。 【真】 「…………」 【詞】 「なによその表情」 どうやら『オムライスいらない』といった顔色が出てしまったらしい。 【詞】 「そんな反抗的なんだったら、胸もアソコもあげないんだからっ」 【真】 「べ、別に……いいもん……」 【詞】 「真はいつからそんなに反抗期になったのっ!?」 【詞】 「姉さん悲しくて死んじゃうっ!」 【真】 「…………」 始まった。 子ども化し始めた……。 【詞】 「あーもーやだ死んでやるー。真が反抗期やめないと姉さん死んでやるんだからー」 【真】 「…………」 【詞】 「あーあーあー」 うるさい……。 【真】 「分かったよ……分かったから……」 【真】 「だから駄々こねないでよ」 やっぱり、おれは姉さんに甘い。 それを改めて実感する。 そして、姉さんもおれに、甘い。 【詞】 「じゃあ、どっちが好き?」 目元に涙をためて、上目づかいで覗いてくる。 …………。 ……。 【真】 「ど、どっちも……」 【真】 「姉さんのなら、どっちも……」 【詞】 「じゃあ、オムライス食べてくれる……?」 【真】 「う、うん」 【詞】 「ほんとっ!? 姉さんマンモスうれぴっー!」 マンモスうれぴーって……。 【詞】 「アーーーン」 【真】 「…………」 【真】 「……アーン」 姉さんのか細い手に握られたスプーンがおれの口に侵略してくる。 口中にケチャップの風味と、懐かしい姉さんの料理の味が広がった。 とても、美味しい……。 【詞】 「ね? ね? 美味しい? 美味しい?」 【真】 「う、うん。美味しい」 【詞】 「よかったあっーーー!」 子どもみたいにはしゃいだ笑顔を見せる姉さん。 やっぱり、その、姉さんの笑っている顔は、可愛い。 普段は美人だけれど、その子どもらしいギャップがとてもたまらない。 【詞】 「はい、もう一口アーン」 ぎゅるるる…… 【詞】 「私もお腹空いちゃった」 【真】 「姉さんも食べればいいのに」 【詞】 「うん、そうする」 そう言って姉さんは、おれにアーンさせたスプーンを使って、おれのオムライスを一口。 【真】 「それ、おれのじゃないの?」 【詞】 「う〜ん、真の味がするぅ〜」 しないって……。 というか、この状況何気ない間接キスというやつなのだが…… 妙に頬が熱くなる。 【詞】 「ほら真もアーン」 姉さんが先ほど加えたスプーン、か……。 【真】 「ア、アーン」 不思議と。 不思議と、先ほどより美味しいと感じてしまった自分に少しだけ後悔した。  ** 【真】 「あの、姉さん……」 【詞】 「なあに、真」 【真】 「お手洗い、行きたいんだけど……」 この拘束を解いてもらわないと、その、漏れるわけで。 【詞】 「はいはーい、ちょっと待ってねっー」 すたこらさっさと姉さんは部屋から出て行き、 すぐに戻ってくる。 その手に握られているのは…… 【真】 「し、尿瓶……?」 ホワイ? 何故? 【詞】 「はーい、ズボンとおパンツ脱ぎ脱ぎしましょーねー」 え。 【真】 「ええええええええっ!?」 えええええええええええええええええっ!? 【真】 「ちょ、ちょっとタイム!」 【詞】 「そーーーれっ」 ガチャガチャとベルトが一瞬で外されて、 しゅるるっとズボンが脱がされてしまった。 【真】 「NO! NO! NO!」 流石にそれは、やばいって! お、おれの貞操がっ! あああ、やめてっーーーー! 【詞】 「次は、おパンツ脱ぎ脱ぎしましょーねー」 けれど、おれに決定権はない。 すべて姉さんの言いなりだ。 【詞】 「すぽぽぽーーーーーーんっ」 【真】 「イヤっ――――――――――――!」 こうしておれの貞操は奪われた。 姉さんによって……。 【真】 「グスン」 【詞】 「はーい、よく出来ましたねー」 【真】 「グスン」 【真】 「もうお嫁にいけない……」 【詞】 「大丈夫!」 何がっ!? 【詞】 「姉さんがお嫁にもらってあげるからっ!」 【詞】 「むしろウェルカム的な?」 【詞】 「むしろウェルカーム的な?」 【真】 「二回も言わなくていいよ……」 グスン。 【詞】 「真」 【詞】 「姉さん、冗談で言ってないからね」 【真】 「え?」 【詞】 「私……真となら……別にいいんだもん……」 姉さんは、何を…… 【詞】 「ううん、むしろ真じゃないと……いやっ」 【真】 「ね、姉さん?」 【詞】 「…………」 …………。 ……。 【詞】 「ねえ、真」 【真】 「……なに」 【詞】 「真は、姉さんのこと――私のこと、好き?」 ドクン 【詞】 「私はね、真のこと、好き。大好き」 【詞】 「きっと――世界で一番愛している」 ドクンドクン 心臓が不自然な脈を打って、血が全身に駆け巡る。 手錠のある手首でさえ、血が完璧にいきわたってしまうくらいに。 身体が、熱く熱くなっていく。 【真】 「…………」 【真】 「そんなの……」 そんなの、ダメだよ。 だって、おれたち…… 【真】 「おれたち、姉妹じゃんか……」 しっかりと、血の繋がった。 でも…… でも、おれだって…… 【真】 「姉さんのこと、好きだよ」 でも、ダメだよそんなの。 間違ってる。 いくらおれが、男のように振るまたって…… 姉さんとは結ばれないんだから。 そんなの、分かってた、はずなのに。 【真】 「でも、それでも……」 【真】 「姉さんのこと――詞姉さんのことが、世界で一番好きなんだ」 それは姉妹としてではなく。 真として、一人の女の子として、 一人の女の子である、詞のことが、 【真】 「大好きなんだ」 【詞】 「……真…………」 姉さんの目元は激しく濡れて、今にも川が出来ちゃうんじゃないかって、そう思った。 【真】 「ねえ、姉さん、どうして『おれ』が『おれ』って言い始めたか分かる?」 姉さんは小さく首を振った。 けれどその動作は、涙が零れるには大きな動作だった。 【真】 「姉さんを、守りたいんだ」 【真】 「『おれ』が姉さんを守りたいんだ」 他の誰でもなく、おれが姉さんを。 【詞】 「真……」 【詞】 「私もね……真を守りたい……」 【詞】 「姉として、真を……」 【詞】 「ダメな姉さんでごめんね……」 【真】 「そんなことないよ」 そんな姉さんだからこそ、おれは好きになったんだ。 【詞】 「なんかね、真をはなしたくなかったの」 【詞】 「いま掴まえなかったら、どこか行って……私の知らないところに行ってしまいそうな気がしたから……」 【真】 「どこもいかないよ」 もう決めたんだ。 姉妹とかそんなの、関係ない。 おれが、姉さんの傍にいてやるんだ。 そう、決めた。 【詞】 「真……」 【真】 「姉さん……」 姉さんが、おれの肩までかかる髪の毛を掻き上げるように、腕を回した。 すぐ目の前に姉さんがいる。 吐息と吐息が握手するほどに。 そして。 おれたちの唇の距離は零になる。 END